2007年発売
「明るく暗れている海だって始終さざ波はあるもの、それだから海はきらきらと光っている。」-手習いの師匠を営む母と年頃の娘、そのひっそりと平凡な女所帯の哀歓を、洗練された東京言葉の文体で、ユーモアをまじえて描きあげた小説集。明治の文豪幸田露伴の娘として、父の最晩年の日常を綴った文章で世に出た著者が、一旦の断筆宣言ののち、父の思い出から離れて、初めて本格的に取り組んだ記念碑的作品。
とある地方都市で小さな水草ショップを営むぼくのもとに、ある夜ひとりの美しい女性が現れる。店のドアに貼ってあった求人チラシを手にして……“アルバイト募集 年齢性別不問。水辺の生き物を愛する方ならどなたでも”。この出会いが、奇跡の始まりだった。著者の愛する映画『ノッティングヒルの恋人』へのオマージュで始まるファンタジックな青春ラブストーリー。'07年6月の映画公開に向け、著者初の、そして待望の長編文庫化!
血の入ったバケツ、黒焦げの骨……「ウィステリア荘」でホームズは『グロテスクなものから恐怖へは、ほんの一歩なんだ』と言う。その他、ホームズが瀕死の床に伏せる「瀕死の探偵」など7編を収録。表題作「最後の挨拶」は、ホームズの隠退からかなりたった第1次世界大戦直前の話で、60代になった二人がふたたびイギリス国家のために活躍する。
『ごめんね、ごめんね…。妻をいままで辱めなかったことを詫びたのでした』。直木賞作家による匿名の官能小説として大反響を呼んだ表題作のほか、夫のゆがんだ情欲を描いた全6編。「家族と夫婦の物語を書き続けたいから」こそ書いた、著者初の“超インモラルな”性愛小説集が今、その禁断の扉を開く。
家に取り憑いた何かを祓う依頼を受け、座木をにわか霊媒師にして現地へ向かった薬屋探偵たち。セキュリティシステムに守られた山中の大邸宅には不穏な空気が満ちており、涸れ井戸の出火を口火として一族に続々と容赦ない殺意が襲いかかる。凶行の犯人は本当に“座敷童子”なのか?心を震わす、シリーズ第6弾。
シルヴァーーエレクトロニック・メタルズ社が試作した人間そっくりのロボット。とび色の瞳に赤褐色の髪、銀色の膚をしたシルヴァーはギターをつまびき、ありとあらゆる歌をかなでる。ひとびとは心を揺さぶるその歌をきそって聞きたがった。だが、たったひとつエレクトロニック・メタルズ社にとって誤算が生じた。シルヴァーに恋する少女が現われたのだ!物語の名手が紡ぎだす、少女とアンドロイドとのSFラブロマンス。
芝居町も知らん振りできぬほど、大入り人気で江戸を騒がす緒川佐保之丞一座。ちょいとした縁のある勘兵衛は、役目ついでに女だけの芝居小屋へ足を運ぶ道すがら、大橋の欄干から身を乗りだしている若衆髷の少年に目を惹きつけられて…。
老博士の書いた純愛小説。パリ、ルーアン、モン・サン・ミッシェル等、美しい中世の面影の残る北フランスを舞台に、一組の男女の長い年月を経てもなお風化しない愛を描いたラブストーリー。他に短編2作品を収録。
麻布の名家に生まれながら、それぞれに異なる生き方を選んだ敷島四兄弟。奉天日本領事館の参事館を務める長男・太郎、日本を捨てて満蒙の地で馬賊の長となった次郎、奉天独立守備隊員として愛国心ゆえに関東軍の策謀に関わってゆく三郎、学生という立場に甘んじながら無政府主義に傾倒していく四郎…ふくれあがった欲望は四兄弟のみならず日本を、そして世界を巻き込んでゆく。未曾有のスケールで描かれる、満州クロニクル第一巻。
新雪に包まれた山中湖畔。日本有数の製薬会社・和辻薬品会長の別荘で、突然、悲劇の幕は開いた!和辻家のだれからも愛されている女子大生の摩子が、大伯父に当たる当主の与兵衛を刺殺したのだ。一族は外部からの犯行に見せかけるため、摩子の家庭教師・一条春生に協力を要請し、偽装工作を…。名作『Yの悲劇』に挑戦する、著者会心の本格長編推理傑作。
ノアは神に命じられた通り、洪水に備えて箱舟を造り、動物たちとともに漂流する。しかし舟のなかに禁断の肉食を知る動物・スカブが紛れ込んだことから、無垢で平和だった動物の世界は、確実に変化していくのだった。聖書では語られない、箱舟の“真の物語”。
女を凌辱加虐、諌める家臣は手打ちに暗殺。悪逆無道の唐津の城主、寺沢兵庫頭を急襲し、父の仇討ちを果たした塚本伊太郎は、“人いれ宿”の頭領となり、幡随院長兵衛と改名、“町奴”として江戸町民の信望を得る。一方、親友の水野百助は十郎左衛門と改め、“旗本奴”を率いてゆく。だが、しだいに“町奴”と“旗本奴”の対立が激化し、立場を分かつ二人の意に反した戦いが迫る。幡随院長兵衛の波瀾の生涯を描く時代長編。
北里財閥の当主浪子は、19歳の一人娘、加奈子に衝撃的な手紙を残して急死した。「私はかつて嘘の証言をして、無実の人を死に追いやった。だが最近、ごく身近な人の中に真犯人がいると知ったー」財閥の社長たち、婚約者の正彦、かかりつけの医師の菊井親子ら、ごく身近な人達が屋敷に集まった。そして警察に追われているという若い男まで加奈子のもとに転がり込んで…莫大な遺産を巡り、恐怖の殺人劇がはじまった!赤川次郎ベストセレクション4。
平安時代の女性の日記。父の任地である東国で育った作者は京に上り、ようやく手に入れた憧れの物語を読みふけった。女房として宮家へ出仕するものの、すぐに引退し結婚。夫は包容力も財力もある人だったが、20年に満たない結婚生活ののち、死別。その後は訪れる人もまれな寂しい生活を過ごす。13歳から40年におよぶ日記に描かれた、思いこがれた生活をついに手にすることのなかった一生が、今の世にも胸に迫る。 一段─1 どうしても物語が読みたい! 一段─2 薬師仏様、さようなら…… 二段 ボロ屋と風景 三段 カラフルな海岸──黒戸の浜 四段 乳母との悲しいお別れ 五段─1 ハードボイルドな恋──竹芝伝説 五段─2 積極的な姫君──竹芝伝説 六段 もろこしと大和──大磯のロングビーチ 七段 美しい遊女──足柄山 九段 富士山のミステリー──富士川伝説 一三段 逢坂の関を通って、とうとう都に到着 一四段 ついに! 物語を読む 一五段 継母とのせつないお別れ 一六段─1 やりきれない訃報──乳母の死 一六段─2 もう一つの訃報──大納言の姫君の死 一七段─1 『源氏物語』ようやく手に入る! 一七段─2 后の位なんか、いらない 二〇段 夢のお告げ──アマテラスを祈りなさい 二二段─1 かわいい猫! 登場 二二段─2 かわいい猫と神秘的な夢 二二段─3 かわいい猫は、言葉がわかる 二五段 かわいい猫が、火事で亡くなりショック 二六段 つらすぎる姉の死 二九段 恋人登場か──東山で水を飲んだ二人 三七段 将来の夢はなんといっても浮舟の女君 三九段 父とのつらいお別れ 四二段 「子忍びの森」という悲しい地名 四三段 清水の夢は叱られる夢 四四段 私の将来──初瀬の夢による明暗のお告げ 四五段 アマテラスも祈らないで…… 四九段 母は出家、父は引退、そして私は宮仕え 五〇段 初出勤に、ただただ緊張 五五段 突然すぎる結婚にガックリ 五六段 物語と現実との落差に愕然とするものの…… 五七段─1 パートタイムの宮仕え 五七段─2 人間アマテラス 六二段─1 かっこいい男性! 登場 六二段─2 ドキドキの春秋くらべ 六二段─3 すてきな男性が語るすてきな冬 六二段─4 偶然の再会と託されたメッセージ 六二段─5 はかないめぐり逢い 六三段─1 今までのことを反省して、物詣でに驀進 六三段─2 過ぎ去る時間、そして石山の夢 六四段─1 禊で騒ぐ世間を無視してひたすら初瀬へ 六四段─2 やっぱり浮舟の女君が…… 六四段─3 二つの夢がうれしくって 六八段 めざせ! 良妻賢母 七四段 船の上の妖艶な遊女──和泉に下る 七五段 信濃(長野県)の守(長官)になって出発する夫 七六段 不吉な人魂が飛んだ瞬間 七七段─1 絶望の底で──夫の死 七七段─2 痛ましい息子の姿 七八段 すさまじい懺悔 七九段 阿弥陀仏様の夢 八〇段 一人ぼっちの私と姨捨山の月 八二段 蓬に託す号泣 付録 コラム