2017年発売
四月の雪の日。あの夜、シェアハウスで開かれたパーティで、一体何があったのか?「樅木照はもう死んでいた」という衝撃的な一行からこの物語は始まる。しかも死んだはずの照の意識は今もなお空中を、住人たちの頭上を、「自由に」浮遊している。悪意と嫉妬、自由と不自由ー小さな染みがじわじわ広がり、住人たちは少しずつ侵されていく。“みんなが照を嫉(ねた)んでいたにちがいない。みんな不自由だったが、照は自由だった。…俺も彼女が嫉ましかった。でも、俺は殺していない。じゃあ、誰だ?”著者の新境地をひらくミステリ&恋愛小説の傑作。
幼くして両親を亡くした島井徳太夫、のちの宗室は、十七歳で朝鮮に渡り、茶道具を買い付けて売ることで博多の有力商人となった。博多を治める大友氏、そして織田信長、さらには羽柴秀吉とも交わるようになる。荒廃した博多を復興した秀吉には、大陸制覇の野望があった。家臣にならなければ攻撃すると朝鮮に伝えるよう、対馬の宗氏に言い渡した。大陸との貿易で栄えてきた宗室は戦火を交えぬ工作をしたが、息子鶴松を亡くした秀吉は、朝鮮出兵を決断。石田三成の依頼を受け、宗室は命懸けで秀吉を諫めたのだがー。戦なき世を求めて生きた気骨溢れる商人の生涯。
「あげなクソ婆、弔ってやらんでもいい、とか言うんで」東京の生活に行き詰まった私は、曽祖母の三十三回忌を口実に、大分の実家に帰郷した。曽祖母・匹田サダは、臼杵の裕福な家に生まれながら、昭和二年、数え歳二十のときに野津市村の農家に嫁いできたという。豊臣秀吉似のサル顔と歯に衣着せぬ物言いが災いして、実家を追い出されたらしい。しかし嫁いでからは次々と男の子ばかりを産み落とし、精米所を大繁盛させ女太閤様と呼ばれた。人に嫌われても決して家族を飢えさせず、懸命に働き続けた熱すぎる女の一生とはー。悩みも悲しみも癒えてゆく、人間賛歌!
一九三三年、私は「天皇」と同じ日に生まれたー東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのために上野駅に降り立った。そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国を。高度経済成長期の中、その象徴ともいえる「上野」を舞台に、福島県相馬郡(現・南相馬市)出身の一人の男の生涯を通じて描かれる死者への祈り、そして日本の光と闇…。「帰る場所を失くしてしまったすべての人たち」へ柳美里が贈る傑作小説。
外様として徳川家康に仕えた井伊直政は、“赤備え”の精鋭部隊を組織しつつ、知謀と胆略を発揮、頭格を現わし、徳川きっての策謀家・参謀として家臣の筆頭格を占め、彦根藩主、大老職を務め、幕末まで徳川家、幕府に貢献した。その豪雄と悲愴、維新後の苦難までを描く、名門井伊家の本質と実態を描く傑作七篇。
略奪婚をした専業主婦の満里子、女性誌編集者の悠希、不妊治療を始めた仁美、人気翻訳家の理央。元同級生達は再会を機にそれぞれの悩みに向き合うことになる。前妻への罪悪感、要領のいい後輩への嫉妬、妊娠できない焦り、好奇の目に晒される戸惑いー。華やかな外見に隠された女性同士の痛すぎる友情と葛藤、そしてその先をリアルに描く衝撃作。
十年前に妻を失うも、最近心揺れる女性に出会った津村。しかし罪悪感で喪失からの一歩を踏み出せずにいた。そんな中、遺された手帳に「だれもわかってくれない」という妻の言葉を見つけ……。彼女はどんな気持ちで死んでいったのかーー。わからない、取り戻せない、どうしようもない。心に「ない」を抱える人々を痛いほど繊細に描いた代表作。
京都・二条で小さな和食器店を営む紫。好きなものに囲まれ静かに暮らす紫の毎日が、20歳近く年上の草木染め職人・光山の出現でがらりと変わる。無邪気で大胆なくせに、強引なことを“してくれない”彼に、紫は心を持て余し、らしくない自分に困り果てる。それでも想いは募る一方。ところが、光山には驚くべき過去がー。ほろ苦く、時々甘い、恋の物語。
他人のものばかりほしくなる不倫女、スーパーの「お客さまの声」に夢中な主婦、旬がすぎ実家に帰ったタレント、人との距離が測れず、恋に人生に臆病になった女。愛に飢え、自分をもてあまし、将来に悩みながらも、このまま足踏みはしていられないー。現状に焦りやもどかしさを抱える6人の女性の生々しい性愛の呪縛と一瞬の煌めきを描いた恋愛小説。
福岡のお屋敷に奉公に出た千恵子。そこで出会った美しい令嬢の和江は、愛に飢えた寂しい日々を送っていた。孤独の中、友情とも恋とも違う感情で惹かれ合うが、第二次大戦下、戦況は刻々と悪化。女たちの運命はたやすく戦火に揺り動かされ…。人生を選ぶことも叶わず、時代と男に翻弄されてもなお咲き続ける昭和の女性たちの、誇り高き愛の物語。
さみしいとか悲しいとか切ないとか、そんなのを感じる心のひだが、全部なくなればいいのにーー。ブスと呼ばれ続けた女、年上男に翻弄される女子高生、未来を夢見て踊り続ける14歳、田舎に帰省して親友と再会した女。「何者でもない」ことに懊悩しながらも「何者にもなれる」と思って、ひたむきにあがき続ける女性を描いた、胸が締め付けられる短編集。
史実に経済(銀)という指標を重ねると、歴史は意外な姿を現す。 信長の真の夢とは、そしてなぜ葬られたのか? 銀をめぐって繰り広げられる、神武一族と倭の末裔との権謀術数。息もつかせぬ歴史ミステリー。 「ノブナガは、ジパングの外を見ていました。……かれが十余年前から遂行してきたジパング統一が、後々の国外進出を視野に入れたものであることは、わたしにはすぐに理解できました。 そして、撰銭令(えりぜにれい)という通貨統制令を発令して、金銀比率の安定化に乗り出したと聞かされたとき、早晩、かれが、銀の海外流出防止策を講じるであろうことも、容易に理解できました。(本文より)」 序の章 叡山討伐 一の章 三日風邪 二の章 羽柴兄弟 三の章 明智一族 四の章 しろがね録 五の章 暗 謀 六の章 吉凶万華 七の章 本能寺、炎上 八の章 山崎の戦さ 九の章 倭の裔結集 十の章 帝都襲撃 最終章 南海通信
捜査二課特殊知能犯罪係主任の郷間彩香は、匿名の通報を受けて墨田区長の汚職疑惑を調べるうち、かつて区長が経営していた金融会社の現社長に目をつけて尾行を開始する。浅草署の刑事が追う詐欺グループや謎の青年が捜査線上に浮上するなか、隅田川でホームレスの死体が発見された。複雑に絡む人間関係と不可解な金の動きー。なかなか噛み合わない事件に“電卓女”こと郷間はどう挑む!?
石川県庁の金融調査部で相談員として働く百瀬良太は、会社の経営難に苦しむ兄が、株取引の天才、黒女神こと二礼茜に大金を依頼する場に同席した。金と引き換えに依頼人の“もっとも大切なもの”を要求する茜は、対価として良太を助手に指名する。依頼人に応える茜の活躍を見守る良太。彼女を追いかける者の影。やがて二人は、日本と中国の間で起こる、国家レベルの壮絶な経済バトルに巻き込まれていく。
捜査一課の敏腕女刑事・橘川七海は、事件で負った重傷による長い昏睡を経て、霊の姿や声を認識できる特異体質に目覚めた。難航する未解決事案を捜査する「重大事案対策班」の班長となった七海は、被害者が行方不明のまま犯人が事故死した誘拐事件をはじめ、死者のみが手がかりを知る事件に立ち向かうー。生者と死者の両者を救う、この世でただ一人の刑事が繰り広げる霊感サスペンス。
まさか、美人で頭のいいあの久曽神静香が結婚? 彼女をとりまく人々は、戸惑いつつも結婚式に出席する。<新婦出席者> 佐古怜美 静香の幼稚園からの唯一の友人。桜井祐介 高校生時代の久曽神に恋をした美容師。富永仁 静香が足繁く通った結婚相談所の担当。<新郎出席者>高原満男 妹が結婚詐欺にあった警官。小暮宏 三年間で十四回結婚式に代理出席。その結婚相手には深い謎があった。予測できないフィナーレが待っている!連作長篇。
手が好きなので、あなたの手を見せてください!--不思議なノリで盛り上がる、深夜の掲示板。そこに集う人々は、日々積み重なっていく小さな違和感に、窮屈さを覚えていた。ほんとの俺ってなんだーー「小鳥の爪先」女という性になじめないーー「あざが薄れるころ」不安や醜さが免除されている子はずるいーー「マリアを愛する」社会の約束事を無視するなんてーー「鮮やかな熱病」俺はいつも取り繕ってばかりだなーー「真夜中のストーリー」連作短篇集。
上泉伊勢守から無刀取りの会得を託され、艱難辛苦の末、奥義を受け継いだ石舟斎。徳川将軍家兵法指南役となり天下に新陰流の名を轟かせた宗矩。廻国修行で己の剣を磨き流派の深化に務めた十兵衛。偉大なる剣客三代を余すところなく活写!