2002年2月28日発売
「井伏さんは悪人です」。太宰治の遺書の謎に迫る本格評伝ミステリー 太宰治といえば常に死を追い求めるひ弱な男で、ついには自分に『人間失格』の烙印を押して死を選んだ、というイメージだった。本作では、遺書に書かれた「みんな、いやしい慾張りばかり。井伏(■二)さんは悪人です」という一文に着目、綿密な取材によって、師と仰いだはずの文豪との確執や、度重なる自殺未遂に隠された目論見などを解いていく。ここで描出された太宰はけっして厭世的な男ではなく、小説のために目標を設定しては破壊する勤勉さを持ち、懸命に生きようとしていた……固定観念に縛られた従来の評伝では見えなかった人間くさい太宰は、妙に魅力的である。河村隆一主演で映画化も決まった『日本の近代 猪瀬直樹著作集』の第4巻。
小説家ジェラルド・キャンドレスは7月6日に71歳で永眠した。1926年5月10日生まれ-父の回想録の執筆をもちかけられたキャンドレスの娘サラは、自分が父の過去をほとんど知らないことに気づいた。さっそく調査に着手した彼女は出生証明書を頼りに父の親類らしき老女を突き止めるが…「ジェラルドはあたしの弟よ。五歳のとき髄膜炎で死んだわ」古びた死亡証明書を前に、愕然とするサラ。父は、ジェラルド・キャンドレスではなかったのだ。では、いったいどこの誰だったのか。不安を押し殺して調査を進める彼女が突き止める衝撃の事実とは。
フリーライター・倉橋渡の許に、父親からの電話が入った。妹の良美が車に撥ねられ、意識不明だという。二カ月後、兄妹で合作し、コンクールに応募したシナリオ「愛を運ぶオウム」を人気スター・榊修輔主演でドラマ化したいという話が持ち上がる。そのオウムにはモデルがいた。人間の言葉を理解し、会話する天才オウム・パル-。
「まさか考えたことがないのか。自分以外の誰かになるってことを!?」忌まわしき殺人者アーケンハウト。彼は、性的欲求を満たすためでも、金品を強奪するためでもなく、ただ相手の「人生」を奪い取るためだけに殺人を犯しつづける。そんな彼が、名画窃盗犯である大学教授の「人生」を盗んでしまったことから、破滅への道を歩き始める…。人間の深層の欲望を鮮烈な筆致で描いた傑作ミステリー。