出版社 : 岩波書店
「最も多く愛する者は、常に敗者であり、常に悩まねばならぬ」-文学、そして芸術への限りないあこがれを抱く一方で、世間と打ち解けている人びとへの羨望を断ち切ることができないトニオ。この作品はマン(1875-1955)の若き日の自画像であり、ほろ苦い味わいを湛えた“青春の書”である。
パリの町で出会った妖精のような若い女・ナジャー彼女とともにすごす驚異の日々のドキュメントが、「真の人生」のありかを垣間見せる。「私は誰か?」の問いにはじまる本書は、シュルレアリスムの生んだ最も重要な、最も美しい作品である。1963年の「著者による全面改訂版」にもとづき、綿密な注解を加えた新訳・決定版。
おい地獄さえぐんだでー函館を出港する漁夫の方言に始まる「蟹工船」。小樽署壁に“日本共産党万歳!”と落書きで終わる「三・一五」。小林多喜二のこれら二作品は、地方性と党派性にもかかわらず思想評価をこえ、プロレタリア文学の古典となった。搾取と労働、組織と個人…歴史は未だ答えず。
“アメリカ的なもの”と“ヨーロッパ的なもの”の対立を扱い、一躍ジェイムズの文名を高めた「デイジー・ミラー」。その解釈をめぐって議論百出の感のある、謎に満ち満ちた幽霊譚「ねじの回転」。“視点人物”を導入した最もポピュラーな中篇二篇を収録。新訳。
人付き合いの少ない鷲見柳之助にとって、妻は命でもあった。その妻を亡くすと、彼は最初ひどく嫌いであった友人の妻が夫の世話を焼く姿に惹かれるようになる。誠実朴訥な男が情をかけてくれる人物に傾いてゆく過程を描いた、紅葉の代表作。
頑なに無為徒食に生きて来た主人公島村は、半年ぶりに雪深い温泉町を訪ね、芸者になった駒子と再会し、「悲しいほど美しい声」の葉子と出会う。人の世の哀しさと美しさを描いて日本近代小説屈指の名作に数えられる、川端康成の代表作。
第五十章 ミスター・ペゴティーの夢が実現する 第五十一章 長き旅路の始まり 第五十二章 爆発に立ち合う 第五十三章 回想、再び 第五十四章 ミスター・ミコーバーの取引 第五十五章 嵐 第五十六章 新しい傷と古傷と 第五十七章 移住者 第五十八章 不在 第五十九章 帰国 第六十章 アグネス 第六十一章 悔悛した二人 第六十二章 光が射す 第六十三章 訪問客 第六十四章 最後の追想 解 説 ディケンズ略年譜 注
三十三年余の短い一生に、珠玉の光を放つ典雅な作品を残した中島敦。近代精神の屈折が祖父伝来の儒家に育ったその漢学の血脈のうちに昇華された表題作をはじめ、『西遊記』に材を取って自我の問題を掘り下げた「悟浄出世」「悟浄歎異」、また南洋への夢を紡いだ「環礁」など、彼の真面目を伝える作品十一篇を収めた。
第三十八章 共同経営の解消 第三十九章 ウィックフィールドとヒープ 第四十章 さまよい人 第四十一章 ドーラの伯母さんたち 第四十二章 悪事 第四十三章 再び青春の頃を想う 第四十四章 新生活 第四十五章 ミスター・ディック、伯母さんの予言を実現する 第四十六章 消息 第四十七章 マーサ 第四十八章 家庭 第四十九章 謎に巻き込まれる 注
1939年、アメリカで独裁者たらんと願う政治家が、博学多識の教授を従えて模索の旅の途上スイスのジュネーヴに。迎えるは海千山千の亡命知識人。目下のヨーロッパのキナ臭い政治状況を視野に独裁者の条件をめぐって辛辣にして抱腹絶倒の激論が続く。1962年に書かれた作品ながら、まさに世界の今を照射する政治小説![解題:加藤周一] 本書の刊行によせて 独裁者について(加藤周一) 1 著者,コロンブスの卵を求めてヨーロッパにやってきた2人のアメリカ人に会う.相手は,独裁者志望のダブル氏と氏のイデオロギー顧問,かの有名なピックアップ教授 2 伝統的政治術と,大衆文化の時代におけるその限界 3 われわれの時代において全体主義的傾向を助長するいくつかの条件について 4 革命失敗後のクーデタ計画 5 独裁を志す男の文芸の女神(ミューズ)への片思い,ナンセンスな家系図と偏頭痛について 6 素質ある者多かれど,選ばれる者少なし 7 独裁志願者の政党について 8 綱領は無用の長物.議論は禁物.いかにして大衆を暗示にかけるか 9 民主主義はいかにしておのれを食い尽くすか.どさくさに紛れて漁夫の利を得る術の参考例 10 二枚舌の使い方と自分の嘘に騙される危険について 11 全体主義の天命に嫌気がさして,プライヴェートな生活が恋しくなる 12 警察と軍隊の後ろ盾がない陰謀,反乱の孕む危険性について 13 溺れる者への藁(レンズ豆スープ)作戦と当局の手を借りたクーデタ 14 国民総賛成,国家=党の浸透,濡れ衣の大量生産について 訳者あとがき 人名註
所はのどかなハーフォードシア。ベネット家には五人の娘がいる。その近所に、独身の資産家ビングリーが引越してきた。-牧師館の一隅で家事の合間に少しずつ書きためられたオースティンの作品は、探偵小説にも匹敵する論理的構成と複雑微妙な心理の精確な描出によって、平凡な家庭の居間を人間喜劇の劇場に変える。
オースティンにとっては「田舎の三、四軒の家族こそが小説の恰好の題材」なのだという。ベネット一家を中心とする恋のやりとりを描いたこの作品においても、作者が最も愛したといわれる主人公エリザベスを始めとして、普通の人々ひとりひとりの個性が鮮やかに浮かび上がる。若さと陽気さと真剣さにあふれた、家庭小説の傑作。
明治四一年、自然主義の文壇を一撃、魅了した短篇集。シアトル着からNY出帆まで、文明の落差を突く洋行者の眼光と邦人の運命が点滅する「酔美人」「夜半の酒場」「支那街の記」-近代人の感性に胚胎した都市の散文が花開く。『ふらんす物語』姉妹篇。
明治四〇年七月、二七歳の荷風は四年間滞在したアメリカから憧れの地フランスに渡った。彼が生涯愛したフランスでの恋、夢、そして近代日本への絶望ー屈指の青春文学の「風俗を壊乱するもの」として発禁となった初版本(明治四二年刊)を再現。
ローマ法博士会で働きはじめたデイヴィッド。少女のようにあどけなく、愛らしいドーラと出会い、すっかりそのとりこになってしまう。久しぶりにセーラム学園時代の旧友トラドルズにも再会したデイヴィッドだったが、そうこうするうちに、エミリーが…。
生まれてすぐに母を亡くし、貧困の中で父親に育てられたお玉は、高利貸末造の妾となり、上野不忍池にほど近い無縁坂にひっそりと住んでいる。やがて、散歩の道すがら家の前を通る医学生岡田と会釈を交すようになり…。鴎外の哀感溢れる中篇。
山 椒 大 夫 魚 玄 機 じいさんばあさん 最 後 の 一 句 高 瀬 舟 高瀬舟縁起 寒 山 拾 得 寒山拾得縁起 解 説(斎藤茂吉) 森鷗外略年譜 注