出版社 : 岩波書店
「私はいま宇宙と同じ大きさになっているはずである」(埴谷雄高「闇のなかの黒い馬」)。現在を突破する言葉の力、小説だけが語れた真実。昭和二七年から四四年に発表された、幸田文・島尾敏雄・三島由紀夫らの一三篇を収録。
「死ぬ日まで天を仰ぎ、一点の恥じ入ることもないことを」-。戦争末期、留学先の日本で27歳の若さで獄死した詩人、尹東柱(1917-1945)。解放後、友人たちが遺された詩集を刊行すると、その清冽な言葉がたちまち韓国の若者たちを魅了した。これらの詩を「朝鮮人の遺産」と呼ぶ在日の詩人金時鐘が、詩集『空と風と星と詩』をはじめ全66篇を選び、訳出した。原詩を付す。
「わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった」-。やし酒を飲むことしか能のない男が、死んだ自分専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため「死者の町」へと旅に出る。旅路で出会う、頭ガイ骨だけの紳士、幻の人質、親指から生まれ出た強力の子…。神話的想像力が豊かに息づく、アフリカ文学の最高傑作。作者自身による略歴(管啓次郎訳)を付す。
「「生きられますか?」と彼は彼女にきいてみた。」(野間宏『顔の中の赤い月』)-焼跡から、記憶から、芽吹き萌え広がることばと物語。昭和二一年から二七年までに発表された、石川淳・坂口安吾・林芙美子らの一三篇を収録。
第一講 中勘助と『銀の匙』の世界 1 象徴としての銀の匙 2 「生きている過去」 3 年譜的な背景 第二講 神田と小石川 1 神田の生活 2 伯母さんの世界 3 小石川へ 第三講 伯母さんとお国さん 1 伯母さんの「教育」 2 はじめての友だち 3 かくれんぼ 第四講 学校のなかで 1 学校生活 2 「恋人」お恵ちゃん 3 「おかあ様」の論理 第五講 孤立する「私」 1 お恵ちゃんとの別れ 2 「つむじまがり」 3 出口なし 第六講 別離と出発 1 伯母さんとの別れ 2 美しい人 3 新しい旅の予感 あとがき
芥川の死、そして昭和文学の幕開けー「死があたかも一つの季節を開いたかのようだった」(堀辰雄)。そこに溢れだした言葉、書かずにおれなかった物語。昭和二年から一七年に発表された、横光利一・太宰治らの一六篇を収録。
「ああ辛い!辛い!もうーもう婦人なんぞにー生れはしませんよ。」日清戦争の時代、互いを想いながらも家族制度のしがらみに引き裂かれてゆく浪子と武男。空前の反響をよび、数多くの演劇・映画の原作ともなった蘆花(一八六八ー一九二七)の出世作。
まえがき じゃま者 卑劣な男 ロセンド・フアレスの物語 めぐり合い フアン・ムラーニャ 老夫人 争 い 別の争い グアヤキル マルコ福音書 ブロディーの報告書 解説(鼓直) 訳 注
「無法請負人」モンク・イーストマン、「動機なき殺人者」ビル・ハリガン(ビリー・ザ・キッド)、「傲慢な式部官長」吉良上野介など、読者には先刻お馴染みの悪党や無法者についての史実や原話を本歌取りしたボルヘス最初の短篇集。ボルヘスによる悪党列伝。
作者のことば 第一章 考え方も容姿も血縁としてそっくりな、ウェイクフィールドの一家のこと。 第二章 一家の災難。財産を失うと、かえって有徳の人としての誇りが高まるということ。 第三章 移転。人生の幸福は、けっきょく、ほとんど自分の力で手に入れるのである。 第四章 どん底の生活でも幸福は得られるもので、それは境遇よりも気質によるという実例。 第五章 あらたに身分の高い人を紹介される。われわれがいちばん期待するものは、たいていいちばんの命取りになる。 第六章 田舎の炉辺の幸福。 第七章 都の才子が語る。どんなまぬけでも、一晩か二晩なら他人をおもしろがらせることができるものだ。 第八章 小さな幸運は約束しないが、大きな幸運をもたらすかもしれない恋愛。 第九章 身分の高い二人の婦人が登場する。服装が高級だと教養も高そうに見えるようだ。 第十章 一家が、自分たちより地位の高い人々と競争しようとする。貧しい者が自分たちを境遇以上に見せかけようとするときの、さまざまなみじめさ。 第十一章 一家はあいかわらず、気位が高い。 第十二章 運命は、ウェイクフィールドの一家を、みじめな境遇に落とす決意でいるらしい。屈辱は往々にして現実の災難以上に辛い。 第十三章 バーチェル氏を、敵だと思ってしまう。ずけずけと不愉快な忠告をするので。 第十四章 新たな失敗または一見災難と見えるものが、じつは幸運になるかもしれない実例。 第十五章 バーチェル氏の悪だくみのいっさいが、たちまちばれる。悧巧すぎることの愚かさ。 第十六章 一家は策をもちいるが、相手の策はそれを上まわる。 第十七章 どれほど貞節な女性でも、長期にわたる甘い誘惑にはめったに抵抗できないということ。 第十八章 失った子供を正道にもどそうとする、ある父親の追求。 第十九章 現政府に不満で、われわれの自由の喪失を恐れている人物のこと。 第二十章 新奇を追って満足を見失った、ある思索的な放浪児の話。 第二十一章 下等な人間同士の友情は長つづきしない。おたがいに興味がなくなれば終わりである。 第二十二章 心の底に愛があれば罪はたやすく赦せる。 第二十三章 罪を犯した者でなければ、いつまでもみじめな気持ちに閉ざされてはいない。 第二十四章 新たな災難の数々。 第二十五章 どんなにみじめに見える境遇にも、何か慰めがある。 第二十六章 牢内の改革。法を完全に守らせるには、罰だけでなく賞もあたえなくてはならない。 第二十七章 前章のつづき。 第二十八章 この世の幸不幸は徳不徳というより、分別の使い方の結果である。神は、この世の幸不幸は本質的に取るに足りないもので、その分配に気をつけるほどのことはないと考えている。 第二十九章 この世での幸福な者、不幸な者の神の扱いは、平等だということ。また快楽と苦痛という性質ゆえに、不幸な者は来世ではかならずその補償を受けるということ。 第三十章 幸福な展望が開けはじめる。不屈の人間になろう。そうすればついに、幸運の女神がわれわれに微笑んでくれよう。 第三十一章 昔の善意が、こんどは思いがけない利子をつけて報いられる。 第三十二章 結び。 * 解説
憑かれたようにサトペンの生涯を語る人びとー少年時代の屈辱、最初の結婚の秘密、息子たちの反抗、近親相姦の怖れ、南部の呪いー。「白い」血脈の永続を望み、そのために破滅した男の生涯を、圧倒的な語りの技法でたたみ掛けるフォークナーの代表作。
日本を終世愛してやまなかったハーン(一八五〇-一九〇四)が我が国古来の文献や民間伝承に取材して創作した短篇集。有名な「耳なし芳一のはなし」など、奇怪な話の中に寂しい美しさを湛えた作品は単なる怪奇小説の域をこえて、人間性に対する深い洞察に満ちている。
ナポレオン没落後、武勲による立身の望みを失った貧しい青年ジュリアン・ソレルが、僧侶階級に身を投じ、その才智と美貌とで貴族階級に食い入って、野望のためにいかに戦いそして恋したか。率直で力強い性格をもったジュリアンという青年像を創出し、恋愛心理の複雑な葛藤を描ききったフランス心理小説の最高峰。
副題「一八三〇年年代記」が示しているように、この小説は一平民青年ジュリアン・ソレルの野心をとおして、貴族・僧侶・ブルジョアジーの三者がしのぎをけずる七月革命前夜の反動的で陰鬱なフランス政界と社会を、痛烈な諷刺をこめて描き出した社会小説でもある。スタンダール(一七八三ー一八四二)の鋭い歴史感覚は時代の精神をみごとにとらえた。
武 蔵 野 蝴 蝶 い ち ご 姫 笹りんどう 山田美妙大人の小説(内田魯庵) 蝴 蝶(内田魯庵) 近日出色の小説(抄)(内田魯庵) 夏木たち(石橋忍月) 国民之友二小説評(依田学海) 解 説 注(大橋崇行・福井辰彦)