出版社 : イースト・プレス
秋原健一、製薬会社課長、四十三歳。波多野妙子、調理師専門学校講師、三十歳。二人は京浜急行の中で出会い、蕎麦屋でせいろを食べ、ホテルでただTVを見るー。(「蕎麦屋の恋」)姫野カオルコが描く、六つの「非・恋愛小説」。
私は彼を好きだったわけではないが、彼に性欲を感じていた。有り体に言えば、私は彼と「やりたかった」のだ。(「しようよ。」)不倫が流行らしいけど、この世には夫のことしか考えていない女もいる、ということをわかってほしいもんだわ、と私はワイドショーの人生相談を見ながら考えている。(「シンデレラ」)島村洋子の描く8つの情景。
自分の母犬を殺し、自分を虐待した男に復讐する犬(「死にゆく道」)、自分から飼い主の少女を奪った男を捜し続ける猫(「トラベルはわが影法師」)、失踪した妻を捜すために、妻がかわいがっていた犬の行方を追う男(「ねむけ」)。仁川高丸が描く、新境地アニマル・ミステリ5編。
灼熱のサウス・カロライナ・オープン。ツアー開催中に、将来を嘱望されたゴルファーが謎の死を遂げる。警察、市、ツアーの上層部がもみ消しをはかるなか、ボストン・ジャーナルのゴルフ記者、ピート・ハッカーは真相究明に乗り出した。調査を続ける彼の前にゴルフ界の闇の部分が次々と暴かれてゆく。ドラッグを売買するキャディー、復讐をたくらむライバル、プロを追いかけるグルーピーの女、そして謎めいたクリスチャンの集会…やがて“犯人逮捕”の報せに、事件は収束へと向かう。ひとり容疑者の動機に疑問を持ち、推理を続けるハッカー。-真犯人は別にいる。ゴルフという名の巨大なシステムがそれぞれの欲望と交錯するとき、疑惑のツアーはついに運命の最終日をむかえる。自身もゴルフ記者であった著者が描く、迫力のゴルフ・ミステリー。
まったくの偶然と幸運から文芸誌の新人賞を受賞してしまった柘植祐一。小説家たちの信じられない姿にドギモを抜かれ、人気作家の哀れな末路を目にしながらも、この世界で身を立てる決心をする。一人の新人作家の生活と仕事を通して、小説家の虚像と実像を生々しく描いたユーモアあふれるエンターテインメント小説。
「あなた、役者でしょ!SMのストーリープレイもできないなんて、だらしないと思わないの!」芝居の演出をしているときより、ずっと迫力が加わったお叱りだった。すでに桜田レイの顔は、女王サマにふさわしいものになっていた。「わかったよ。言うとおりにする…。」俺はレイの申し出を、全面的に受け入れた…。AV男優・早坂純と売れっ子ビデオギャルたちがくり広げるちょっとHな実体験ノベル。
一年に一度開かれるドラフト会議ー。その裏ではペナントレース以上の過酷なドラマが繰りひろげられていた。有無をいわせぬ親会社からの指令、スカウト同士の熾烈な駆けひき、そして裏切り…。乱れ飛ぶ怪情報や思惑に、二人のエリート高校球児、木野原と久米田は運命を弄ばれる。高野連の規則を巧みに利用した裏工作とは?複雑に入り組んだ野球界の人間模様を描いた実録野球小説。
「面倒な話にならなければいいのだが…。」一本の電話が日本貿易ファイナンス社長・戸田泰三の胸中に、一点の黒い染みを残した。電話の主は大蔵族の大物国会議員、遠山大五。「近いうちに一度、飯でもどうや」。荒っぽい関西弁でそれだけ告げた。この先わが身に何が振りかかろうとしているか、戸田は知る由もない。族議員と大蔵官僚の錯綜する思惑。てんでばらばらにみえたそれぞれのベクトルが、しだいに同一方向へと向かい始めた時、戸田は巨大な陥穽にはまったことを知る。
オーディションの難関を乗り越え、中央テレビの連続ドラマ『青春ストーリー』のヒロインに抜摺された鏡桐子ー。大成功に終ったドラマ出演のあとは、新人歌手として幸運なデビューを果たす。プレーボーイ・タレント、田島行彦との恋も桐子を夢中にさせるが、彼女の知らないところで、みにくい陰謀が次々に起きてくる。桐子ははたして、スターの階段を昇りきることができるのだろうか。芸能界の真実を描ききった異色小説。
「ミステリー大賞」の受賞作品が作者不明。東京出版・文芸編集部の村瀬祐一は作者を探し出すよう命じられる。その過程で現れた妖艶な美女・結城真佐子。「あの作品はプライバシーの侵害です…」受賞作品には真佐子の人間関係が克明に描写されていた。いったいだれが何のためにこんな小説を書いたのか?謎を追う祐一は真佐子の魔性に引きずりこまれていく…。
警視総監賞31回、指名手配検拳47件ー。すご腕の元警視庁刑事が書き下ろしたホンモノ警察小説。刑事のありのままの生態を描く。主人公の南郷大介は“チャンピオン”の異名をとる警視庁刑事。上背はたいしてないのに、立った姿は仁王のようだ。ちょっと厳つい顔も、見ようによっちゃ、筋モンそのもの。そんな南郷が、休む間もなく起こる殺人や強盗事件に全力ダッシュする。
「モチモチ、モチモチっと…」。バスルームでふざけて、私は麗子の乳房を揉んだ。「いまやってるSの切り餅CMでしょう?…まったく、ろくなこと考えないんだから…」。麗子は笑っていたが、私には嬉しいことがあった。彼女は、正確に銘柄を覚えている。『振り向かないで〜』『黒は強いぞ!』など、電通の名物ディレクターとして数々の名作CMを生んだ著者が、CM制作の苦悩と喜びを、業界への熱い思いを込めて描きあげた異色小説。
一度仕事をしくじると編集者からゴミ同然に捨てられる雑誌ライター。かけだしとはいえライター北野弘に要求される取材内容は厳しい。棚ぼたなどあろうはずもなく、必死にスキャンダルを追いかける。その過程で彼は、特集記事の仕掛け、スクープの裏側、取材もなしに平然と記事を書く不良ライターの存在を知る。一度は出版社にほされた北町だが、懸命にライターの道を歩んでいく。ライターの心情と機微を現役ライターが描いた体験小説。
貧しいが故に、自ら遊廓に身を売った一人の少女・雪子と遊廓の一人息子・陸男ー。物語は、戦後の混乱期から立ち直りかけた昭和32年から高度成長期の昭和50年代までを背景に、二人の運命的な出会いから別れ、そして再会…。その愛の姿をドラマチックに描く。