著者 : 福家道信
「架空の国の備忘録が、日本を含む実在する国々の正統性を疑ってみよ、と蠱惑的に囁きかける。未知なる歴史の可能性に触れる戦慄と、極上の小説を読んでしまったという興奮に一挙に襲われた。」 ーー温又柔さん絶賛! 日本オリジナル編集による マレーシア華人作家の最新代表作 近年注目を集めている華語文学の新たな流れを紹介するシリーズ〈サイノフォン〉の第2巻。マレーシア華人を代表する作家、黄錦樹の短篇小説集。黄錦樹は1967年にマレー半島の南端、クルアンで生まれ、高校卒業後に台湾へ渡り、台湾大学中文系で学士、淡水大学で修士、国立清華大学で博士の学位を取得、在学中から活発な創作活動を展開、主要な文学賞を総なめにしている。 台湾で故郷マレーシアの物語を書き続ける黄錦樹は、2012年からマラヤ共産党をテーマとした小説を続けて発表している。マラヤ共産党は、1930年に結党、東南アジアで左翼政治闘争を最も長期にわたって継続したゲリラ組織で、党員には華人が多く、日本軍によるマラヤ占領期には、マラヤ人民抗日軍を組織して抵抗し、シンガポールとマレーシア華人の精神と生活の両面に甚大な影響を及ぼした。本書は、黄錦樹のマラヤ共産党をめぐる5冊の短篇小説集から著者自らが24篇を精選した日本オリジナル短篇小説集。構成も、各作品の内在的なつながりを考慮し、著者とともに決定した。それらは個人の記憶の奥深くから出発し、共同体の集団の記憶へとつながっている。 投降し帰郷した老共産党員、共産党に潜入した過去を隠してオーストラリアに移住した男性、マラヤ共産党員に父母を殺され、母代わりの女性に育てられた姉弟、密林で潜伏生活を送る共産ゲリラの少女、夫を共産党員に殺された女性、どの国にも帰属意識をもたない政治犯、共産党員の子どもたちなど、各篇の語り手は自在に変化し、複層的に語られる。 そのように歴史の狭間に置き去りにされた人々や物事を救い出し、ときには、もう一つの架空の歴史を構築し、人々に刻まれたトラウマを描き出す。本書は小説の形をした狂想曲であり、21世紀の華語文学の最も特色のある叙事である。