著者 : 及川茜
中国における最高栄誉の文学賞といわれる「魯迅文学賞」受賞作。 閻連科も絶賛した小説集、ついに邦訳! 誰もが、どの家族もが、災禍を経験している。 人は絶望を超えていかに生きるのか──。 85年生まれ、「最後の世代の遊牧民」を自任する著者が 大草原でいのちと向き合いながら書いた、究極の野生文学。 家族の結びつき、愛馬との別れ、仲間との労働と旅。 動物との生きるか死ぬかの闘い、そこに降りかかる天災……。 モンゴル、チベットに近接する荒涼とした大地で 馬や牛、羊と共に暮らす男の、張り裂けそうな心を描く。 「俺たちの今の生活こそが物語だ」 雪山を進むネズミ駆除隊。どれだけ困難でも、来たからにはやらなければならない。 自然の猛威、血と肉の匂い、生と死の手触り。 経験した人にしか書けない、圧倒的なリアリティと詩情がここにある。 「生きることの孤独」を見つめ、心の奥の揺らぎと物語のかけがえなさを丹念に綴った。 魂をゆさぶる10の物語。 「索南才譲の小説は、私たちに土地と文学の意義を再考させ、 なぜ人は生きるのかを新たに定義する。 それにはある意味で、創作の偏りを是正する面がある。」 ──閻連科(小説家 帯コメントより) 「翻訳されることなくその土地に人知れず根を下ろしている宝が、 この世にはまだまだ存在しているのではないだろうか。 索南才譲の小説は、その宝庫へと読者を誘う扉のように思われる。」 (「訳者あとがき」より) 中国の最大の湖・青海湖近くの大草原で遊牧民として育った著者が 羊の番をするさなか、読書にのめり込み、いつしかノートに書きはじめた小説。 とことんローカルな地に根ざして書いた物語が、世界のあらゆる場所とつながる。 同時代を生きる私たちの心に響く、傑作小説集。 【目次】 シンハーナードンにて 牛の囲い 一人の馬飼い 徳州の酒場 ただ一つの音だけが それからどうする ハゲワシ かくかくしかじか 山の間 荒原にて 作者あとがき・訳者あとがき
「架空の国の備忘録が、日本を含む実在する国々の正統性を疑ってみよ、と蠱惑的に囁きかける。未知なる歴史の可能性に触れる戦慄と、極上の小説を読んでしまったという興奮に一挙に襲われた。」 ーー温又柔さん絶賛! 日本オリジナル編集による マレーシア華人作家の最新代表作 近年注目を集めている華語文学の新たな流れを紹介するシリーズ〈サイノフォン〉の第2巻。マレーシア華人を代表する作家、黄錦樹の短篇小説集。黄錦樹は1967年にマレー半島の南端、クルアンで生まれ、高校卒業後に台湾へ渡り、台湾大学中文系で学士、淡水大学で修士、国立清華大学で博士の学位を取得、在学中から活発な創作活動を展開、主要な文学賞を総なめにしている。 台湾で故郷マレーシアの物語を書き続ける黄錦樹は、2012年からマラヤ共産党をテーマとした小説を続けて発表している。マラヤ共産党は、1930年に結党、東南アジアで左翼政治闘争を最も長期にわたって継続したゲリラ組織で、党員には華人が多く、日本軍によるマラヤ占領期には、マラヤ人民抗日軍を組織して抵抗し、シンガポールとマレーシア華人の精神と生活の両面に甚大な影響を及ぼした。本書は、黄錦樹のマラヤ共産党をめぐる5冊の短篇小説集から著者自らが24篇を精選した日本オリジナル短篇小説集。構成も、各作品の内在的なつながりを考慮し、著者とともに決定した。それらは個人の記憶の奥深くから出発し、共同体の集団の記憶へとつながっている。 投降し帰郷した老共産党員、共産党に潜入した過去を隠してオーストラリアに移住した男性、マラヤ共産党員に父母を殺され、母代わりの女性に育てられた姉弟、密林で潜伏生活を送る共産ゲリラの少女、夫を共産党員に殺された女性、どの国にも帰属意識をもたない政治犯、共産党員の子どもたちなど、各篇の語り手は自在に変化し、複層的に語られる。 そのように歴史の狭間に置き去りにされた人々や物事を救い出し、ときには、もう一つの架空の歴史を構築し、人々に刻まれたトラウマを描き出す。本書は小説の形をした狂想曲であり、21世紀の華語文学の最も特色のある叙事である。
生を手離さずにいることは、こんなにも難しいーー。 失業、借金、いじめ、病気……駅で自ら死を選ぶ人々と、その防止に奔走する地下鉄職員・葉育安。 現代台湾文学を牽引する作家・何致和が、都会の声なき声を拾い再生を描く台湾発の話題書。 台湾文学賞、誠品読書職人賞など受賞多数! ・ ・ ・ 葉育安(ヨウ・イクアン)、45歳、思春期の娘と認知症の老母との3人暮らし。 優柔不断、すべてに受け身で生きる彼が 地下鉄の自殺防止プロジェクト長として向き合うことになったのは、 地下鉄のホームで今まさに自死へ向かう人たち。 ・ 会社のお金を横領したサラリーマン、SNSで失恋を晒された中学生、持病に悩む老人、周囲から羨まれながらも生きる気力を失った女性……自殺防止プロジェクトリーダーを任せられた育安は、なんとか成果を出そうと試行錯誤を重ねるも、自らの足でホームから飛び降りる人たちを止めることはできない。 それでも群集のなかに身を置いて、日々を生きていく寄るべき人々の体温が、見知らぬ他人をいつしか温めていくーー出口のない問題を抱え生きる全ての人へ、ささやかでも、明日へ向かう力の一端になる物語。 ・ 現代社会のひずみや抑圧を描いたソン・ウォンピョン『アーモンド』、ハン・ガン『回復する人間』らにも通じるストーリーテラーの初邦訳。 ・ 《解説:松本俊彦(精神科医・作家)》 読了後、語られなかったこと、描かれなかった余白に読者は深く心を揺さぶられ、何かを考え始める。こうした、読後から始まる独特の余韻、静かな残響音は、本作品における最大の魅力といってよいだろう。 ・ 《台湾文学金典賞授賞/選評 凌性傑(詩人・作家)》 何致和は中年男性の心境をきめ細やかに描き出し、公共交通機関と時代の鼓動を結び付け、地下鉄によって交わる人生を通じ、様々な流動を表現する。その流動感に、多声的な語り、語りの視点の交代が加わることで、重層的で、極めて読みごたえのある作品に仕上がっている。 地下鉄という現代の交通機関は、個々の実存の不安を乗せる一方で、出発と帰還を支えている。本書で最も引き付けられるのは、冷静に傍観しているようでいて、「理解しようとする」やさしさを潜めた語りである。
1970年マレーシア生まれの中国語で創作する女性作家による初の短篇小説集。同時代のマレーシアを舞台に、女性の視点から語られる11篇。各作品を貫くのは、“境界”というテーマである。 多民族・多言語国家であるマレーシアの人口は主にマレー人、華人、インド人で構成される。その多数を占めるマレー人はムスリムであり、二重に敷かれた法制度のうちイスラーム法が適用される。ムスリムと非ムスリムとの婚姻は認められていない。 国境・民族・宗教などの境界線で区切られた男性優位の社会の中で、ささいな衝突を通じて、制度から抜け出そうともがく女性たち。一方で、人間の強烈な欲望や逃れられない運命を描きながら、近年加速するマレーシアのイスラーム化にともなう女性の現実的な問題に切り込み、権力が個人の暮らしに容赦なく踏み込んでくることへの文学的挑戦を試みていることに欧米も注目する。性暴力をはじめ様々な暴力の影が忍び寄るのを常に感じながら成長する少女の姿や、現在の社会の中で生きるよりどころを見出そうとする女性の心理が繊細に、ときに幻想的に描き出される。英国PEN翻訳賞受賞、Warwick Prize for Women in Translation 最終候補作。 湖面は鏡のように 壁 男の子のように黒い 箱 夏のつむじ風 ラジオドラマ 十月 小さな町の三月 Aminah 風がパイナップルの葉とプルメリアの花を吹き抜けた フックのついたチャチャチャ 訳者あとがき
地球とコロニーである火星のあいだで戦争が起き、終結した。友好のため、火星の少年少女は使節として地球に送られるが、かれらは地球と火星のどちらにもアイデンティティを見いだせず……。「折りたたみ北京」でヒューゴー賞を受賞した著者の美しきSFドラマ
元神話学教授のチーズ職人の家に養子として迎えられた、難病のミミズ研究者の物語「闇夜、黒い大地と黒い山」。鳥の声を聴き取る自閉症の鳥類行動学者が、母の死をきっかけに聴力を失い、新たな言語を構築していく「人はいかにして言語を学ぶか」。植物状態にある恋人のツリークライマーに負い目を感じる主人公が、臨死体験を利用した治療法に身を委ねる「アイスシールドの森」。無差別殺人事件で妻を失った弁護士が、未完成の妻の小説に登場する絶滅種を追い求める「雲は高度二千メートルに」。海に惹きつけられた四人の男女が、絶滅したクロマグロを探す旅に出る「とこしえに受胎する女性」。中華商場で子どもたちを魅了した一羽の鷹と、その持ち主である叔父さんをめぐる追憶の物語「サシバ、ベンガル虎および七人の少年少女」。緩やかに連関しつつ紡がれる自然と人間の大いなる物語。現代台湾を代表する作家のネイチャーライティング・フィクション。
ケン・リュウも注目の中国SF作家、初の短篇小説集! 「北京 折りたたみの都市」でヒューゴー賞を受賞し、いま最も注目されているSF作家の初の短篇小説集。社会格差や高齢化、エネルギー資源、医療問題、都市生活者のストレスなど、現代の中国社会が抱える様々な問題が反映された全7篇。 「北京 折りたたみの都市」 物語の舞台は、産業の自動化が進んだ北京。人間の労働力が不要になった都市で、人口増加と失業問題を解決するために折りたたみ式の都市が建設され、人々はそこで生活している。都市は三つの空間に分割され、第一空間では富裕層のみが地表で24時間を過ごし、折りたたまれた残りの第二空間、第三空間の人間は24時間を分けあう。互いの行き来は厳しく制限されている。第三空間のゴミ処理場で働く48歳の老刀(ラオダオ)は娘を幼稚園に入れるお金を工面するために、第一空間に忍び込もうとするが……。 「弦の調べ」「繁華を慕って」 宇宙からやってきた「鋼鉄人」が地球を侵略する。ヴァイオリニストの斉躍(チー・ユエ)は、師に従って鋼鉄人が拠点としている月を爆破する計画を手伝うことに。共振を起こして弦に見立てた宇宙エレベーターを震動させ、音楽によって爆破するという計画だったが……。バイオリニストの夫の視点からの「弦の調べ」と、作曲を志してイギリスに留学する妻の側から語られる「繁華を慕って」は対になり、夫婦の心の弦が響き合う。 北京 折りたたみの都市 弦の調べ 繁華を慕って 生死のはざま 山奥の療養院 孤独な病室 先延ばし症候群