著者 : ヘルタ・ミュラー
呼び出し呼び出し
「私は呼び出しを受けている」。朝の八時前、この告白とともに一人の女性が住まいを出る。一九八〇年代のルーマニア、とあるアパレル縫製工場で働く「私」は、今日は自分に出会いたくないという屈折した気持ちを朝から抱く。国外逃亡の嫌疑をかけられたため、毎回十時きっかりにアルブ少佐の尋問に出頭しなければならならず、今日がまさにその日だ。(訳者あとがきより) 原題:Heute wär ich mir lieber nicht begegnet(今日は自分に会いたくなかったのに) あたかも、万華鏡の中に閉じ込められて、覗き見られながら、変転する自らの過去を追想しているかのような「私」。--監視下の窒息的な愛と時間の中に棚引く死の記憶。 推薦帯文 小説家 平野啓一郎氏
心獣心獣
個人と集団の経験を牧歌的に混淆させ、「深い憂い」を断片的な個々の事物に刻み込めながら、独自の「歴史的な証言」を読者に追体験させる。それだけに、作品が犯す大いなる矛盾を、読者も敢えて犯さなければならない。チャウシェスク独裁政権下のマイノリティーの苦難。ノーベル文学賞受賞作家による「周辺」の文学。
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